はじめに
贈与税は、親や祖父母から財産を譲り受ける際に避けて通れない税金です。
特に、2024年から施行の税制改正によって、生前贈与の加算期間が従来の3年から7年へと延長され、
多くの人が
「せっかく計画的に贈与していたのに、相続時に再計算されてしまうのでは?」
と不安を感じているのではないでしょうか。
しかし、この「7年間の生前贈与加算」を回避するための合法的なテクニックが存在します。
それは「相続時精算課税制度の改正」です。
このテクニックも令和5年度の税制改正よって決まったかなり前向きな減税制度なのですが、
あまり注目されておらず、知られていません。
本記事では、最新の税制を踏まえながら、どのように贈与を計画すれば節税できるのかを解説します。
適切な知識を身につけ、賢く資産を引き継ぐための戦略を考えていきましょう。
そもそも、なぜ贈与税があるのか?
相続税の仕組み
贈与税と相続税は密接に関係しており、まずは相続税の仕組みを理解しましょう。
以下が国税庁が掲載している相続税の税率表です。

相続税の税率(出典:国税庁)
相続税は最低10%からスタートし、財産が6億円を超えると最高55%まで跳ね上がります。
これは所得税と並んで、むちゃくちゃ高い税率です。
課税対象
相続税は「亡くなった時点での財産」にかかる税金です。
厳密には、預金、投資信託・株式、不動産などの『プラスの財産』から、
借金、未払金などの『マイナスの財産』を差し引いた『純財産』に対して課税されます。
(課税対象の純資産)=(プラスの財産)-(マイナスの財産)
基礎控除
ただし、相続税には基礎控除 があります。
- 基本控除額:3,000万円
- 法定相続人1人あたり:600万円
例えば、配偶者1人+子ども2人(相続人3人)の場合は、
3,000万円+600万円×3人=4,800万円
が基礎控除という非課税枠になります。このラインを超えなければ相続税はかかりません。
相続税対策としての贈与
「3代続けば財産が無くなる」とまで言われている相続税ですが、どのような対策方法があるのでしょうか。
相続税対策として有名なのは『生前贈与』です。
つまり、
『 生きている間に、財産をお子さんやお孫さんに贈与して、
相続時の財産を減らすことで相続税を節約する 』
という考え方です。
相続税逃れのために生前贈与をする人が増えたため、国は『贈与税』という別の税制を作りました。
そして、この贈与税の税率がめちゃくちゃ高いんです。

贈与税の速算表<特例税率>(出典:国税庁)

贈与税の速算表<一般税率>(出典:国税庁)
直系尊属(父母、祖父母)から18歳以上の者(子、孫)が受け取った場合にかかる特例税率と、
その他(他人など)から贈与を受けた場合にかかる一般税率があります。
最高税率は55%で相続税と同じですが、その課税対象の財産規模が相続税では6億円超なのが
贈与税では4,500万円超、もしくは3,000万円超、となっています。
ポイントと注意点
- 個人から財産や様々な権利、物品を貰った場合は『贈与税の課税対象』
- 贈与の申告は、『財産を受け取った人』が行う必要がある
所得税・住民税の課税対象になります。
贈与税の計算方法
贈与税には、2つの計算方法があります。
- 暦年課税【原則】
- 相続時精算課税【届出要】
暦年課税とは
毎年1月1日から12月31日までの1年間に110万円を超える財産をもらった場合に、
財産をもらった人に対して課税される税金です。

贈与税の計算式(参考:相続税のチェスター)
「控除」という文言が2か所にあり、少しややこしい計算式です。
また、税率区分(特例または一般)に応じて、それぞれ計算する必要があります。
相続時精算課税とは
直系尊属(父母、祖父母)から18歳以上の子・孫への生前贈与で選択できる制度です。
贈与者が亡くなった際、その贈与額と相続財産を合計し、相続税を計算・精算します。
この制度では、累計2,500万円まで贈与税がかかりません。非課税です。
2,500万円を超えた場合は、超過分に一律20%の贈与税がかかります。
注意ポイント
贈与者と受贈者のペアごとに選択できますが、一度決めると変更はできません。
ただし、同一のペアでの贈与は、累計2,500万円に達するまで何度でも控除可能です。
また、冒頭で少し触れた改正の内容、2024年以降(令和6年分申告から)は、
相続時精算課税でも年間110万円の基礎控除を受けることができるようになりました。
還暦課税と相続時精算課税の比較
これまでの説明をまとめると、以下のようになります。
相続時精算課税について、本記事の『肝』ですので、次々章で詳しく説明します。

出典:生命保険文化センター
贈与税と相続税はセットで考える
贈与税の税制ができた背景からも分かるように、贈与税と相続税は深く関連しており、
『贈与税と相続税は、一体として考える』というのが税法の根底にあります。
生前贈与加算
ここまで読んでいただくと、「毎年110万円以下の贈与なら、無税なのでは?」と思われたかもしれません。
確かに、110万円以下なら贈与税はかかりませんが、『生前贈与加算』というルールがあります。
一定期間に行われた生前贈与を相続財産に加算(持ち戻し)して、相続税額を計算するルールです。

(出典:相続税のチェスター)
この「一定期間」は、従来(令和5年まで)は「 3年以内 」でしたが、
令和6年1月1日以降に行われる贈与から順次「 7年以内 」に延長されています。
つまり、親が亡くなる前の7年間に行った贈与は「なかったこと」にされ、
相続財産として扱われてしまうことになります。
延長4年間の控除額
生前贈与加算の計算を更にややこしくするのが、延長された4年間の総額に控除があるということです。
具体的には、相続開始前4~7年以内(3年超7年以内)に行った生前贈与については、
生前贈与財産から総額100万円を差し引いた金額を相続財産に加算します。

(出典:相続税のチェスター)
相続時精算課税制度
これまでの説明にもありましたが、ここで制度の条件やメリット、デメリットを整理しておきます。
条件
- 対象者:
60歳以上の父母・祖父母から、18歳以上の子・孫への贈与 - 課税対象:
金銭、不動産、株式など、全ての財産が対象 - 税率:
生涯、累計2,500万円まで非課税。超過分は一律20%課税 - 届出:
贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日までの間に、
「相続時精算課税選択届出書」を提出する必要あり
メリット
- 多額の財産を早期移転可能(相続時の争族対策になる)
- 相続税対策として活用できる
デメリット
- 一度選択すると暦年課税に戻せない
- 相続財産に贈与財産が加算される
デメリットの最後「相続財産に贈与財産が加算される」の例外が出てきましたので、
本記事の本題、回避する合法テクニックとして詳しくご紹介いたします。
令和6年分から届出により生前贈与110万円が無制限に非課税
相続時精算課税制度がどのように変わったかというと、
累計2,500万円とは別に、
毎年110万円の贈与には贈与税がかからず、相続時にも加算されない
ということです。
地味な改正に聞こえるかもしれませんが、うまく使えば大きなメリットが得られます。
少し複雑なため、シミュレーションしてみましょう。
シミュレーション:10年間、毎年200万円を贈与する場合
暦年課税
- 贈与税
(200万円 - 110万円)× 10% = 9万円/年 - 相続時の生前贈与加算
7年間の1,400万円の贈与が加算される
※既に贈与税で支払った 9万円 × 7年 = 63万円 は、相続税の納付額から控除できる
相続時精算課税
- 贈与税
毎年110万円 × 10年 = 1,100万円は無税
(200万円 - 110万円)× 10年 = 900万円 👈2,500万円の非課税枠内なので無税 - 相続時精算
900万円の贈与が、相続財産として加算される
7年間の生前贈与加算を回避するには
先のシミュレーションの場合、2,000万円の財産を、
毎年110万円ずつ18年くらいかけて贈与していけば、完全無税となります。
この贈与方法でも、暦年課税の場合は、相続時に7年間の持ち戻しが行われますが、
相続時精算課税を選んだ場合は、毎年110万円の非課税枠内のため、完全無税となります。
この改正により、『時間』を有効に活用することができれば、
『相続時精算課税』が非常に使いやすくなりました。
組み合わせて活用
暦年課税の生前贈与加算、新しくなった相続時精算課税、
それぞれの条件やルールから、制度をうまく組み合わせて使っていくと節税効果が高くなります。
例えば、
- 相続時精算課税
親・子関係の場合は、この制度をフル活用 - 暦年課税
祖父母・孫関係の場合は、生前贈与加算の対象外。こっちの制度を活用
という感じです。
贈与税申告書の注意点
申告期限・納期限
基本的には、所得税(確定申告)の申告期限と同じです。
申告方法
e-Tax で申告書を提出可能です。
暦年課税の場合は、スマホでの提出もできるようになりました。
注意点
相続時精算課税を選択する場合は、申告書提出前に『届出書』を提出しないといけません。
提出していないと、相続時精算課税制度を受けれません。
相続時精算課税選択届出書の注意点
届出期限
申告書と一緒に提出するか、先に提出する必要があります。
届出方法
e-Tax で届出書を提出可能です。
一度届出書を提出した後は、来年以降は再度提出する必要ありません。
注意点
贈与者と受贈者のペアごとに届出の作成、提出が必要になります。
別のペアで相続時精算課税を選択する場合は、そのペアの届出書提出が必須となります。
例えば、祖父と母からの贈与を受け、両者ともに相続時精算課税を選択する場合は、
それぞれのペアごとに届出書の提出が必要となります。ただし、申告書は1枚です。
記入方法

(出典:国税庁 - 令和6年分様式)
- 受贈者
左上の『受贈者』とは、財産をもらった人のことです。
個人番号(マイナンバー)の記入も必須となっています。
※贈与税の申告書を一緒に提出する場合は、この欄は記入不要です。 - 特定贈与者
中段の『特定贈与者』とは、財産をあげた人のことです。
おわりに
令和5年度の贈与税に関する税制改正で、あまり注目されていない変更内容についてを解説しました。
令和6年分から、無税で贈与110万円を無限に繰り返すことが出来るようになっています。
これに伴って、申告書も激変しておりますので、記入漏れが無いように注意していただければと思います。
参考
- 円満相続(税理士法人):相続前7年以内の生前贈与は遡って持ち戻し加算!2024年改正で3年から7年へ
- 相続税のチェスター:贈与税の計算方法とは?
- 相続税のチェスター:生前贈与加算とは?
- YouTube:令和6年から贈与税の申告書が激変!?無税で生前贈与110万円を無限に繰返す
- 国税庁:No.4155 相続税の税率
- 国税庁:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
- 国税庁:B1-1 贈与税の申告手続
- 国税庁:令和6年分贈与税の申告書等の様式一覧
- 国税庁:主な国税の納期限(法定納期限)及び振替日
- 生活保険文化センター:相続時精算課税制度とは?